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「ロートンヌ」神田広達シェフの記事全文翻訳! [スイーツ]


スペインの製菓専門誌「so good」がようやく発売されて、ホッとしていると、昨日、今回取材でお世話になった神田広達シェフにお会いしました。ブログにものせていただいたとのことです。日本で買えない雑誌なので、せめてと思い、記事の翻訳文をのせることにしました。以下が、全文です。



 日本人の桜好きは多くの人が知っているかもしれない。
たった1週間で散ってしまう桜を求め、人々は山や公園を訪れ、花見を楽しむ。桜が咲く春を待ちわびるように、まだ寒さの厳しい2月頃から日本の和菓子店、洋菓子店には桜風味の菓子が並ぶ。日本に桜風味の菓子が生まれたのは18世紀初めと言われている。米粉と水を練り合わせて蒸した粘りのある生地に餡をくるみ、塩漬けの桜の葉を巻いた「桜餅」は、春の訪れを知らせる和菓子として、何世代もの間、親しまれてきた。桜の香りに魅せられ、パティシエが桜のケーキやクッキー、チョコレートに作り始めたのは21世紀なってからだろう。桜の香りは、バラやスミレのよう強くない。そのデリケートな香りを、上手に洋菓子に取り入れられるパティシエはそう多くない。そんなパティシエの一人が神田広達だ。彼の店「ロートンヌ」は、東京の中心地、新宿から電車で約40分の郊外にありながら、メディアにも注目される人気店だ。



 毎年、新年が開けると、「ロートンヌ」では淡いピンク色をしたケーキ「Sakura」がお目見えする。ほのかな桜の香り漂うムースの中には、抹茶のムースと桜風味のダックワーズが隠れている。側面にあしらった桜の葉の塩漬けが、味のアクセントだ。「桜餅の香り、食感を思わせるケーキを作りたいと思いました。甘いだけでなく、抹茶の苦味と塩漬けの葉が持つ塩気を加えるのがポイントです」と神田は言う。確かに、水分を吸って柔らかくなったダックワーズは餅に似た食感で、桜ペーストをほんの少量加えたムースとのコンビネーションは、確かに桜餅を思わせる。和菓子の世界では、昔から甘みを引き立てるために、少々の塩が効果的に使われてきたが、神田のSakuraも甘みと塩のバランスが絶妙だ。



 神田は和菓子店に生まれたものの、高校卒業後に働き始めたのは洋菓子店だった。働きながら、フランスに出向き、数々のコンクールに出場後、24歳で父親の和菓子店を「ロートンヌ」と改名し洋菓子店として営業を始めた。が、スタッフは父のもとで働いていた年長の職人たち。生来の協調性と柔軟さが幸いし、神田は年齢もキャリアも違う彼らともうまく付き合うことで、ロートンヌを街の人気店にしていった。今では販売員を含め、26人が彼のもとで働いている。「20種類のアントルメを含め、100種類近いアイテムを2店舗ぶん作るには、チームワークが不可欠です。チームワークとは作業を分担するだけでなく、アイデアも共有し、みんなで新しいものを作っていくこと。38歳の私がこれまでに得た技術や知識と、20代の粗削りなアイデアがうまく結びつき、まったく新しいものができることもあるのです」。



 チームワークを大切にする昔ながらの日本人的な考え方をする一方で、彼の頭の中は自由で斬新な発想が詰まっている。「たとえば、菓子づくりで『乳化』させることは基本的なルールですが、なめらかな乳化状態がいつもベストではないと思うのです。乳化しないボソボソとした状態が、ときには面白いこともある。『変わらない伝統の味』という表現がありますが、実際は変わらない味なんてないと思うのです。伝統的なレシピも、時代とともに進化した製法、道具、材料によってマイナーチェンジを繰り返す。極端な話、作り手である私たちの日々の感情で、菓子も微妙に変化しているはずですし、その変化が私は楽しいと思う。人間味あふれる生のパフォーマンスが私は好きなんです。映画より、俳優やミュージシャンがその日、その瞬間にしか見せられないパフォーマンスをする、ミュージカルやライブのように」。



その言葉通り、彼は「その瞬間の素材の魅力」を重視する。だから、アントルメのデコレーションも日々変化してしまうという。Sakuraのデコレーションも明日には変わっているのだろう。「イチゴひとつにしても、その日のイチゴの一番いい表情をとらえて、角度や位置を考えながらデコレーションしていきます。そうした感覚を大切にしている人のケーキには、どこか色気が感じられるものなのです」



 人懐っこい性格と、自由な発想力を持つ彼のもとには、いろいろなオファーが舞い込む。ニンテンドーのゲームソフトの開発や、ニューヨークのヒップなレストランとのコラボレーション、音楽好きなパティシエとともに開催するロックコンサート。今年は、来日した際に意気投合したセバスチャン・ブイエと、スタッフの交換留学や、音楽とケーキのコラボレーションも計画している。「厨房でただひたすら仕事をするだけでは、クリエイティビティは育たない。自分もスタッフも、新しいことにゼロから挑戦することが、クリエイティビティや仕事へのモチベーションを向上させるきっかけになると思っています」。今年は、念願の都心に近い立地に3号店(六本木から地下鉄で約20分の新江古田)もできる。これまで、チャンスはあったが、スタッフとの結束力が十分でないことを理由に断念してきたというが、今年のチーム・ロートンヌはエネルギーも満タン。また大きな一歩を踏み出そうとしている。




神田シェフ、本当にご協力ありがとうございました。
今後も取材でお会いできるのを楽しみにしています。



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